PAPERCOLLEGE
「ジェンダーって?セクシャル・マイノリティ(性的少数者)って?性同一性障害(GID)ってなぁに?」
現代は知りたい情報をスマホやパソコンで検索することで瞬時に検索することができる「ネット社会」ですが、情報や知識が多く氾濫していることもあって、検索して得た情報に必ずしも正確でないものが含まれていることも否めません。
昨今、ネットやテレビ、出版などで「LGBT.、セクシャル・マイノリティ、性同一性障害・・・・」など、性についての様々な情報についても時々、目にし耳にするようになりました。様々な角度から取材や解説されたものも増えつつありますが、なかなか身近な問題として触れる機会も少ないことが現実です。こうした現状を踏まえ、セクシャル・マイノリティな人たちやその家族友人たち、まだカミングアウトできない人たち、そして公的機関、教育機関などで、このことをより正確にとらえ、現代社会に受け入れていくことは、これからの時代にとても重要なことです。本誌は、その趣旨のもと、基本情報のみをまとめていますが、今後、様々な公的機関や教育機関などでもセクシャル・マイノリティな人たちへ、より理解が深まり優しい社会へとつながる「きっかけ」となることを願って発行したものです。
ジェンダーってなぁに?
ジェンダーとは英語でgenderと記します。一般的に大きく3つの使い方があり、①生物学的性別 ②文化的、社会的に形成された性差③性別に対する自己意識(認知)の意味で使われます。①の生物学的性別はfemale(女性)、 male(男性) のように形態、機能上に男女区別する使い方です。②の文化的、社会的形成された性差とは、「男性だから」「女性だから」というように「服装、髪型、色や役割、責任」など人為的、社会的に作られた性差として使われる意味です。③については、「自分は男(女)」「男(女)として生きていく」という性別に対しての自己意識(認識)の意味で使われます。一般的にジェンダーとは生物学的な性差(セックス))に付加された社会的・文化的性差のことをいいます。
セクシャル・マイノリティってなんだろう?
セクシャル・マイノリティとは、性的少数者の総称のひとつです。セクシャリティ(性行動の対象や性に関連する行動、傾向などの総称)を①身体②心③恋愛対象の性別で組み合わせた場合に、少数者となる層の総称で、一般的にLGBT層と規定されています。
L・・・レズビアン(女性同性愛者) G・・・ゲイ(男性同性愛者)
B・・・バイセクシャル(両性愛者) T・・・トランスジェンダー(性同一性障害など)
<参考>セクシャル・マイノリティのLGBTに該当する人は13人に1人(7.6%)になると電通のアンケート調査で発表(2015年4月。電通ダイバーシティ・ラボ(電通総研)がインターネットを通じて、全国の20代から50代のおよそ7万人を対象に調査)
性同一性障害(GID)ってなぁに?
性別について聞かれると、一般的には「男性か女性」の2つの性別で答えます。
この場合の性別とは生物学的な性別(SEX)ですが、自分の性別については、自分の性別をどう意識するかという「性別の自己意識、自己認知」があり、これをジェンダー・アイデンティティ(gender identity),といいます。 多くの場合、生物学的性別と性別の自己意識、自己認知(ジェンダー・アイデンティティ)は一致していますが、この両者が一致しない場合あり、このような場合を「性同一性障害」GID(Gender Identity Disorder)といいます。つまり、「身体の性」と「心の性」が一致しない状態です。性同一性障害を定義する場合、「生物学的性別(sex)と性別に対する自己意識、自己認知(gender identity)が一致しない状態」ということになります。
性同一性障害と同性愛の違い
性同一性障害と同性愛は同じではありません。混同されがちですが、両者はまったく別で、性同一性障害は、生まれ持った自らの性別に違和感をもつジェンダー・アイデンティティの問題です。同性愛は性対象として同性の相手を選ぶことを意味しますので(セクシャル・マイノリティ資料参照)、性同一性障害の人には、異性愛の人も同性愛の人も両性愛の人もいます。 また、多くの性同一性障害の人が、生まれ持った性別とは反対の性別の服装を身につけることを好みますが、「異性の服装などを好む(男装、女装)異性装」の人たちもいますの、異性装をするからといって、性同一性障害とは言えません。
性同一性障害の主な症状、行動は?
生まれ持った自らの性別に嫌悪感を持ち、たとえば、男性で生まれ女性の心をもつ性同一性障害の場合(MTF)、「自分の性器はなかったらよかったのに」「いらない」と思いつめたりします。2次性徴期の声変わり、筋肉、骨格の成長などに嫌悪し続けます。女性で生まれ男性の心を持つ性同一性障害の場合(FTM)、月経、乳房の膨らみなどの身体の変化に嫌悪し続けます。その結果、思春期などに、MTFの場合、男性的なムダ毛の脱毛処理などをしたり、FTMの場合、乳房のふくらみを隠したりします。思春期前の遊びでも、MTFの男の子の場合、女の子の遊びを好み、FTMの女の子の場合には、男の子のような活発な遊びを好みます。その他、家庭、学校などでの言葉遣いや身のこなしなどでも、自分の好む性の特徴が行動にあらわれます。これは自らのジェンダーにあった生活や遊びをすることが自分の本来の気持ちに合致するからです。
カミングアウトの現実と社会
たとえば自分が性同一性障害であるとわかっていても、それをどのタイミングで周囲の人にカミングアウトするかは、簡単なことではありません。学生、社会人の場合でも違いがありますし、カミングアウトする相手が家族、友人知人、仕事関係などでも違いがあります。
性同一性障害などのセクシャル・マイノリティの人たちが、簡単にカミングアウトできない理由には、今の人間関係などを大事に思う反面、自分自身のストレスや精神的苦痛に耐えられない気持ちがあふれだしているため、素直に話したい気持ちと周囲に受け入れてもらえるかという不安との葛藤を繰り返しながら、そのタイミングに試行錯誤しているのが多くの現実問題であると思われます。
性同一性障害の診断と治療について
性同一性障害の診断には段階を経なければなりません。
- 生物学的性(SEX)を染色体検査やホルモン検査、内性器、外性器の検査等を行って、正常な男女のいずれかの性別であることを証明し決定。
- ジェンダー・アイデンティティを決定するため、これまでの言動、服装、人間関係、職業など性別役割の状況を調べ、それらを基に決定。
- ①と②の生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが不一致であることを明らかにする。
- ③の判断の際、「性分化疾患に異常ないこと、精神的障害に異常ないこと、社会的理由による性別変更の希望ではないことを確認しなければならない。 染色体の異常などによる性分化の障害(かつての半陰陽など)においてはジェンダーの決定がとても重要となります。性分化疾患では多くの場合、性別違和症候群といわれ広くジェンダーの障害として対応を必要とします。
☆性同一性障害の診断は十分な経験を持つ精神科医2名の診断によって確定し、その2名の診断が不一致の場合のみ3人目の精神科医の診断を求めます。
☆性同一性障害の治療は、通常、①精神療法②内分泌療法(ホルモン療法)③外科的治療の3段階を順に治療していきます。③のあとも通常、精神療法や内分泌療法を継続します。
外科的治療である男性から女性への(Male to Female, MTF)性別適合手術は、精巣摘出、造膣術などの外陰部形成術をし、女性から男性への(Female to Male, FTM)手術は、通常、二段階の手術となります。第一段階で卵巣摘出、子宮摘出などを行い、第二段階で陰茎形成術を行います。
より良い社会環境に向けて
性同一性障害など性別違和を持つ人たちにとって、現時点の医療的対応にはまだまだ不安が多いです。一つには国内に専門とする医療施設が少なく専門医が少ないことです。性同一性障害の診断と治療は複数の診療科の連携を必要とするために、今後の医療環境の整備に期待している人は多いです。法的整備においては、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」を制定されました(2003年7月10日)。翌2004年7月から施行され、
性別に関する特例法が施行された2004年7月から2011年度までに、申し立て受け付けは総計2936件でしたが、そのうち、裁判所で認められた性別変更(更正)は2847件と「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」調査で発表されています。
様々な人がお互いに理解あるより良い社会環境を築いていくために、私たち一人一人のお互いの思いやりや行動がとても大切になります。また医療機関、教育機関、公共機関などの人材育成や環境整備も重要になっていきます。
○関連団体、協会、社団法人
日本性同一性障害と共に生きる、日本精神神経学会、GID学会など。
Paper College「ジェンダー社会研究会 GID研究部」